今日は久々にFD3Sのメンテをすることになりました。
ゴリさんと二人で作業します・・・
といっても、作業はゴリさんで僕は口を挟んで、「あ~だ、こ~だ」講釈する係です。

例年日本列島は温暖化で暑くなってきて、全く住みにくくなってきました。
今日のFDのオーナーも暑くなってエアコンを掛けていると、
赤信号で停車時に、
エンジンの回転数が落ちてくると支えきれなくなってそのままエンストするとのことです。
特に右左折でハンドルを切って、徐行して再停車するとエンストする頻度が高いと。

周囲から「下手くそ?」と思われることにプライドが激しく傷つくということで、点検です。

先月頃、そんな相談を受けましたが、最近作業予定が混み混みで今日になりました。

このクルマはちょっと変わっていて、
非純正のシングルタービンに吸排気も手が入っていて
ちょいちょいサーキットやジムカーナ等スポーツ走行に使われる、
うちの会社では珍しい?仕様です。
以前はエンジンもサイドポートのスペシャルでしたが、
実はこのクルマは2台目で、今のクルマのエンジン自は純正のポートです。

ですので、余計に普通に乗っていてエンストするのはおかしいということで、
今日は時間を掛けて徹底的にやりましょう・・・ということです。

では、早速作業に取り掛かりましょう。

低水温時(~60℃くらいまで)はスロットルボディについているサーモワックスにより
スロットルバタフライは少しだけ開いていて機械的にアイドリングを上げています。

60~70℃くらいになると、サーモワックスによるバタフライは閉じて
暖気も終了してダブルスロットルも開き、通常の走行状態になります。
この辺からはアイドリングの回転数はコンピューターによる電気的な制御に切り替わります。
アイドリング時720rpm、電気負荷ON時800rpm、エアコンONで900rpm
大体この辺の回転数でしょう。
これは、ダブルスロットルの横辺りについているISC(アイドルスピードコントロールバルブ)で
制御されていて、スロットルボディのバタフライを迂回して空気を流す通路に
ISCを入れてコンピューターの命令によりアイドリングをコントロールしています。

余談ですが、先日のRX-8や最近のレシプロエンジンは、
スロットルのバタフライがワイヤーでなくモーターでコントロールされる
フライ・バイ・ワイヤなのでISCは無くなり、
暖気中からコンピューターが、バタフライを必要量だけ開けてファーストアイドルから
通常アイドルまで全部コントロールしています。
コンピューターに逆らうとアクセルも開きません。

その点FD3SやFC3Sはアクセルペダルからスロットルボディまでワイヤーが
繋がっていてエンジンルームでワイヤーを引っ張ればエンジンふかせます。

チェック事項としては、
先ず、ISCが正常に働いているか・・・
これは、暖気終了後ライトや電気負荷を掛けてアイドルアップするか?
エアコンを掛けてさらにアイドルアップするか?
ステアリングを左右に切ってみてアイドルアップするか?

次にダッシュポッドがそこそこ働いているか?
アクセルオフ時に一気にスロットルが閉じると制御が間に合わないので、
閉じる寸前に少しだけダンパーを入れてゆっくり閉じる機械的な機構が
ダッシュポッドです。これが経年的に劣化するとスカスカでアクセルオフ時の
ダンピング効果が無くなっている場合もあります。
見たところまだフカフカしていますのでそのまま行ってみましょう。

では、アクセルワイヤーを引っ張って、放して様子を見てみましょう。

確かにアイドリングに戻る前に回転数の落ち込みが大きく、
この時にストールしてしまうようです。

んじゃ、ベースアイドルを見てみましょう。
ベースアイドルとは、ISCで制御しない場合のエンジンの自力でのアイドリング調整です。

アイドリング調整方法 中村式

理屈は上のリンクを参照してください。

早速ISCのコネクタを引っこ抜いたところ、このエンジン見事にエンストしました。
「なんやねん、ベースアイドル低すぎじゃん」
では調整です。すでにゴリさんはマイナスドライバー持ってスタンバっています。

先ずは、現状を把握することが必要ですので、
エア・アジャスト・スクリュー(A.A.S)をゆっくり締めていき
何回転または何度回せば全閉になるかを確認しましょう。

今回は3/4回転くらいで締め切りでしたので、もう少し緩めてみましょう。
緩めるとバイパスするエア量が増えて回転が上がるはずです…正常であれば。

ISCのカプラーを接続してA.A.Sを一回転戻し、再始動してみます。
温間再始動モードで始動していますので1分ほど待ちます。
通常のアイドリングモードに戻ったころを見計らってもう一度
ISCのカプラーを抜いてみますと…プスッっとストールします。

んじゃ、もう少し緩めて・・・再始動して・・・
結局3回転くらい緩めないとアイドリングしないようです。

A.A.Sは新品のエンジンですと全閉が基準です。
プライマリバタフライの僅かな隙間から吸い込むエアの流量で
充分アイドリングできます。
エンジンの状態にも寄りますが、A.A.Sの戻し量は多くて1回転半~2回転です。
3回転戻してもイマイチということは、ゴリさんもニヤついて同じこと考えているようです、
「スロットルボディ外しますぅ~~?」そうしましょう。

スロットルボディはチョーク用の冷却水が回っていますので、
全部取り外すと面倒ですから、車上で作業します。

冷却水のホースは刺さったままで、スロットルボディを取り外し
問題のA.A.Sが刺さっているバイパスエアーの通路を掃除します。
汚れたミストがエンジンにかからない様にウエス等で養生して
パーツクリーナーを吹き込みます。

エア・アジャスト・スクリューは車上で
抜くのは困難なのでそのままで作業してください。

(写真は実験用スロットルボディです)

バタフライの周囲が黒く汚れているように見えますが、
気密用の特殊な塗料(スロットルコート)が塗ってありますので黒くて正常です。
あまり擦りすぎて綺麗にしすぎると、気密性が薄れてアイドリングが下がらなくなります。

組みなおしてA.A.Sを最初の戻し量でエンジンを掛けてみますと、
先ほどよりアイドリングの回転数が上がった感じです。

温間再始動モードを抜けたら、ISCのカプラーを抜いてベースアイドルを700rpmくらいにします。
その後ISCのカプラーを差し込むと、一時的に回転数が上がりますがすぐに学習機能が働いて
コンピュータが既定のアイドリングの回転数に合わせてくれます。

ということで、その後オーナーに乗ってもらってテストしてみましたが、
エンストは再現しなくなりましたので、
今回の症状の原因としては、エアバイパス通路の詰まりであたりだったようです。

しかし、クルマによってはエアコンを使用するとコンプレッサが重くて負荷に負けてしまうとか、
電動FANが回ると電気使用量の増加でオルタネータの負荷が増えて重くなるとか、
色々な要因も考えられますので、脳内反射でスロットルボディ外す前によく考えて作業しましょう。